きこえてきたこと

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『スポットライト 世紀のスクープ』

 

 神父による少年への性的虐待のニュースはたびたびあってもなかったことのように日常に戻っていく。バチカンをTOPとした組織的な隠蔽とみたボストン・グローブの記者たちがその闇に挑む…という内容なんだけど、ただのスクープが暴かれて爽快!っていう話ではない。

 まずは聖職者による、貧しく頼りのない子供たちへの暴力。それによりどれだけ苦しんだかということが、とてもリアルに感情が伝わってくる感じがする。こんなことが!!という事実を見ているわたしたちも共有していく。ちょっと辛い。子供、性暴力、被害者の告白スタイルなのだ。再現ではない。

 そして、この事実をどんどん突き詰めていくうちに、ロビーはあることに気がついていく...。攻略すべき取材対象が、「昔ボストン・グローブに証拠を送っても見向きもしなかったじゃないか」というのだ。しかも複数。その謎が最後に…。

 ロビーとその仲間は無事にスクープを成し遂げた!社会的に意義のある内容だった。しかし、かつてボストン・グローブに送られてきた数々の神父による性的虐待の証拠をそのまま放置していたのは…誰?それはロビー自身だった。

 若き日のロビーがろくでなしだったのか?いや、そうではないと思う。たまたまそういうことになったんだ。長い年月の後、ロビーはやっとこの犯罪に目を向けた。彼は過去の自分を振り返ってその事実を後悔するというより、見つめている感じがする。彼が見つめる自分というものから人間がどういう存在かということを考えさせてくれる。マイケル・キートンの演技がすごくいい。良い映画だと思う。

 素晴らしい功績があれば、すべては素晴らしいでいいのか。そうではない人間の人生。