Audibleで聞いた。
なんとも主人公のスティーブンスの古くさい格式張った、それでいてプライドの高いめんどくさい男っぷりがすごくて一体なんの物語なのかと思った。
ナチスに加担したと断ぜられた前の主人のダーリントン卿から、アメリカ人の今の主人へと館ごと仕える先が変わったスティーブンス。英国の執事としての矜持を胸に毎日の仕事をこなしている。そしてそこに絡むかつて屋敷にいたミス・ケントンからの手紙・・・。屋敷の運営のためにと彼女に会いに行くスティーブンスの数日間と過去が彼の視点でいったりきたりしながら見て行く。
彼の視点なのだ。 彼がどう思っているかだけが綴られているので、一方的な彼の勘違いの可能性も、読者は予想しながら読むのだ。そこが面白い。結局人間の認識なんて、確かなものなんてないんだという前提で進む。
一つは、彼の前の主人がどんなに善人であったかわからないが、結果ナチスに加担したとされたという事実。そして執事としてそれを誇りに思うべきなのに人にダーリントン卿に仕えたことを一瞬隠してしまうスティーブンス。「君の意見はどうなんだい」という問いかけに、仕事をすべてとしてそれ以外の答えを出すことをしなかった自分を認識し出す。
小説はすごく良かった。そして映画も見ることに。
なにがいいって、アンソニー・ホプキンスのスティーブンスの変態さ。これはかれならではの雰囲気だと思った。小説を読んだときの印象と違ったけど、これは良いと思う。
小説がスティーブンスの一人語りのため情報が少ないが、映画はスティーブンスの視点から描かれるもののいろいろな情報がぎゅっと詰まって目の前に現われる。そしてこの物語の良いことは、予定調和で終わらない。すべてが少しずつ歪みがあって、全然上手くいかないことを淡々と見せられているのがいいという気がする。
最期にミスケントンは言う。
「わたしは夫を愛していることに気がついた。どうしようもなくわたしを必要としてくれている夫を。」
だから孫の世話をするために屋敷には戻れないと。そこに愛を見いだすのか。わたしにはわからなかった。どうしようもなく必要とされても、それに応える喜びをわたしは持たなかった。持てなかった。あれだけ結婚前にスティーブンスに思いをぶつけていてもそうなってしまうのかな。そのスティーブンスが今ここにいても。わたしにはわからないなと感じた。そういう形があるんだ。
ミスケントンとの別れの雨のシーンは良かった。雨と共に何かが流れていくような、雨のカーテンで遮られていくような、流れる雨や水は美しくはないところが合っていた気がする。
一番最後に、煙突から屋敷に迷い込んだ鳩をルイスが捕まえて窓から逃がすシーンがある。なぜか、ここはルイスが逃がすのがすごくぴったりきた。彼が閉じられた窓から新しい空気を入れるような、開放感を体現しているような気がして良いエンディングだった。
年を取ってから読んだり見たりした方がいい作品かもしれない。作品の中に自分を見いだして感じることが多くあるのではないかな。若い人は、今読んだら10年後にもう一回読んでみたらいい。わたしも時間をおいて読んでみようと思う。スティーブンスのように過去を顧みながら。