きこえてきたこと

哲学、読書、文学、宗教、映画、日々のこと。

蝉の声

 蝉の声を聞くとさみしくなる。

 蝉の一生を思って・・・みたいなものではなく、祖父母の家の窓から山を見ていたことを思い出す。

 その部屋は母の姉の部屋だったところ。窓の外にちょっと庭があって、その先に土手がある。その先はずっと田んぼ。田んぼが終わったところからが山。山の上には電線が見える。

 夏の夕方、夕飯までの間、なにもすることがないとこの窓から外を眺めていた。ものすごい田舎だから散歩以外することがない。ゲームをしてたとかいう記憶がないから、まだ祖父がいた時を思い出してるんだと思う。 

 蝉が鳴いていて、山が見えて、だれも人間が見えなくて、この空間に自分だけがいて、やることがなくて、でも家族がこの家の中にいて、祖父母、両親、弟。家族が一番幸せだった時だと思う。そんななんでもない風景がわたしは忘れられない。

 蝉の声を聞くと、この情景を思い出す。今はない、幸せだった、なにもこわくなかった完全な世界を思い出し、とてもとてもさみしくなる。

 大人になるというのは、辛いことだなとちょっと思う。