「貴女に謝らなければならないことがある」
とリビングで二人になったときに母親に言われた。
「大分前に、貴女に「自分の子育ては正しかったと思うか」と聞かれたときに、「正しい」と断言したことを謝りたい。私は結婚した後仕事を辞め、バイトはしたけど専業主婦だった。その私が「子育ては間違っていた」といったら自分のすべてを否定することになる。だからできなかった。貴女は最初の子だったから、それだけでも試行錯誤だった。正しかったなんて言えない。でも私はそう言わないといけなかった。それを今謝りたいと思う。」
覚えている。
わたしの母は正しい人なのだ。
わたしはずっとそれに苦しさを感じていた。何かで口論になったときに、「自分の子育ては正しかったと思うのか」と聞いた。わたしなりの最大の攻撃だった。それをいとも簡単に母はかわした。わたしの心が一層硬くなったことの一つだ。
それを軽々と当たり前のように答えていた母が、実はずっとそのことを考えていた。驚いた。
わたしも一緒なのである。認めたらだめなのだ。折れてはいけないものがあるのだ。だからいま生きていける。同じなのだ。
母もわたしも変わらない人間という存在なのだということを遠くから思いながら、同時にそれでもわたしは母との距離を縮められない。どうしようもない。わたしに謝りながら、次の話題では父をゆるせない母の話が続く。どうしようもない。
どうしようもない。どうしようもない。